1980年に実際に起こったらしいオーストリアでの殺人事件に基づく殺人犯アングストさんの不安で仕方ないけど、不器用ながらも、健気に殺人頑張る姿をつつましく、恐縮しながら見守らせていただく尊い作品。
幼少期の悲惨な家庭環境と虐待を生き残り、そんな境遇にもめげず、育まれた暴力衝動と向き合いながらも刑務所生活を全うしているアングストさん。
殺人罪で10年目の出所した晴れた社会での、早速のおめこ殺人計画を実行しようと心躍るアングストさんの時間を無駄にしないストイックな姿勢がハチャメチャにクールだけど熱い!
自由になった途端に、目的意識を確かに持つという意味でもアングストさんはしっかり者。
「いっちょ一発社会にブチかましたるわ!」って思うわけです。
イーロン・マスクがペイパル起こした時とかスティーブ・ジョブスがアップル立ち上げた時の志とほぼ一緒。
メラメラ燃える野心とか上を目指す意気込みとか。
ただ、アングストさんは起業とかじゃなくて殺人をします。
違うのはそこだけw
経験上、どうしても殺人に興味の気持ちが向かいます。
台詞のやりとりなんかはほぼなくて、ほぼアングストさんによる子供時代の思い出、殺人に向ける自分なりの構想や心情が吐露されるモノローグだけで展開されていく作り。
それがなんだか不気味なんだけど心地よい。
久しぶりの自由の身での殺人なので、見た目以上にテンションは実は高まっていて、内心のワクワクドキドキが凄いわけですw
ああしてやるぞこうしてやるぞと頭の中ではアングストさんなりの立派な計画や手順があるんですよね。
だけど、ことごとく上手くいかない。
殺人って難しいよ、マジでw
緊張するし、テンパるし、物理的にも苦労が多いw
そうサクサクと死んでくれない被害者にイライラさえしますこっちはw
頭で描いたとおりに物事って運ばないんですよね。
人間関係や仕事も一緒だなって思いました。
それでも、アングストさんは決して弱音吐かないし、あきらめません。
理想を追い求めるし、こだわりも捨てない。
警察に捕まったらどうしようとかリスクを怖がらずに、欲望に忠実なアングストさんがカッコ良く見えました。
やるべきことにひたむきに打ち込む人間が流す汗は倍から美しかった。
最高です、アングストさんは!
一寸先も分からない社会で、毎日を手探りで必死に生きる現代人すべてに送る応援歌であり、礼賛。
POV映画ぐらいかってぐらいに寄ってのアップクロース臨場感かと思ったらぐおぉーんって俯瞰ってなぐらいまでの引いての高みの見物ショットにいたるまで、独特で、的確で、リズミカルなカメラワークによって淡々と、でも余すところなく描かれる殺人犯アングストさんの獄中人生の末の待ち焦がれてのエモーションとドラマに満ちた一念発起の殺人実践記録。
それはただの人殺しの凶行なんかじゃなくて、すべての人が共感できる「一生懸命」。
ありがとう、アングストさん!